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本駒込 洋食の『ふくや』 ー さすらいごはん#3

レシピ系エントリが続き、それ絡みの次回予告までしてあったところだが、
自分でも少々飽き、というか倦怠、というか義務感ゆえの忌避感情、
みたいなものが芽生え始めてきているのを感じるため
今回はひさしぶりの「さすらいごはん」シリーズをさし挟む。



今回の『ふくや』は現存する店なので
過去2回の「さすらいごはん」シリーズ・エントリとは少し趣の異なるエントリとなる。
が、私がここで語る『ふくや』は現在名高き「デカ盛りの店」ではなく
(おそらくは)先代のご主人夫妻がやられていた『ふくや』なので
やはり私のさすらい魂に依拠するおもひでエントリになるのだ。



早稲田というモロの、そしてかなり大規模な「学生街」に住んでいたせいで
ひょんな、そして無意味で必然性のないきっかけから移り住んだ白山/本駒込という街を
私は当初から、そして最後までずっと嫌いだった。
そこにはひょいっと歩いていける公共プールがなく、
3本〜5本組で安価にヴィデオ・テープを売ってあるような店もなく、
ましてや服屋や輸入/中古レコード店などあろうはずもない。
今はどうか知らないが、また私の行動範囲/様式の問題にすぎなかったかもしれないが
ノー・カントリー・フォー・ヤング・メン ー
そこはけっして若者向きの街ではない。
そこで暮らした1年半からせいぜいで2年ほどの短い間、
私には「行きつけの、お気に入りの/用足しの店」というものがほとんどなかった。



そんなこの街で、ほぼ唯一と言える行きつけの、お気に入りの店となったのが
この『ふくや』だった。
その頃は確か21時、あるいは22時(?)閉店で、
「ああ、今日はもう遅かったか」と行き損ねを悔やむことも多かったと思う。
そんな時私は、以降これきっかけで結構お気に入りとなる『松屋(チェーン)』か
コンビニ弁当で済ませていたのだった。
(今となっては我ながら謎なのだが、その頃の私は夜食?2度目の本番夕食?を
 がっつり摂るのが日常だったのだ)
で、それらで「済ませ」たくない時になぜ『ふくや』だったかと言えば
当時のメニュー:チキンソテーセットを目当てに、だった。



おそらくは息子さんが店主であろう当代『ふくや』のメニューでも
「チキンチーズソテーセット」「チキンテリヤキセット」に名残りが窺えるが、
私が当時食べていたチキンソテーセットは(ナカグロ有無不詳)
メインのチキン・ソテーにキラー要素があり
この1メニューのためだけにでも行くモチベが十分あったのだ。



「ソテー」というのはフランス語 sauter=跳ねる/跳ねさせる の過去分詞形で
おそらく「強火」「油/脂で食材が跳ねるほどに」「パンを速く揺り動かす」という要素が
キーになる調理法ということなので
食材がどう、ソースがどう、調味料がどう、という分には定義がない。
実際、どういう店どういうテイク・アウト品のどのような「ソテー」であっても ー
たとえば付け合わせの1品に「きのこと玉ねぎのソテー」とあったとしても
それがどういう調味料を使ってどういう味付けになっているかの手がかりはない訳だ。
そこから当然、次のような疑問が生じ得る ー
「この店の『チキン・ソテー』はどういう味/味付けなのだろう?」
理論的/論理的には、どのような味/味付けでもあり得る。



そこで問題の先代『ふくや』のチキン・ソテー、なのだが
とにかく美味い。としか言いようがない。
当時はまだ料理素人だった私にはロクに見当も付けられないが
おそらくは塩、コショウ、鶏由来の脂分、にせいぜいでウスター・ソースやワインや砂糖やで
「ケチャップ味」「醤油味」みたいにこれと定義付けられないような、
強いて謂うなら「グレイヴィー・ソース味」に、あっさりと仕立てた「ソテー」、なのだ。



これまた記憶が定かではなく恐縮なのだが、
この「セット」は、「ライス、みそ汁、サラダ付」ではなく味噌汁に替わってスープが付き
今でもそうであるらしきように、フォークとナイフで食すのだった。
特にこれといった具材が入ってるわけでもない、おそらくは「チキン・コンソメ
もしくは「オニオン・コンソメ」であったろうシンプルなスープと相まって
「洋食屋」の矜持と腕が感じられるそのチキンソテーセットは、
私の洋食/定食メニュー経験履歴でも
今に至るもそうそう匹敵するものが見つからないトップ・クラスの1品であり続けている。



現行の「チキンチーズソテーセット」の「チーズ」がいつ、何故出来したかは
今の私には知りようもない。
が、おそらくは豚肉の仕入れラインに絶対のアドヴァンテージと歴史があり、
そこから(ポーク・)カレーと豚カツとカツカレーとかつ丼をお値打ちに提供でき
かてて加えて豪気なデカ盛りカツカレーで評判高き現在の『ふくや』で
もしかしてこっそり泣いているチキンと「腕」があったとしたら
あなたが食すべきメニューとして
「チキンチーズソテーセット」と「チキンテリヤキセット」が
あったりするのではなかろうか?
(なんとなくシブくドラマティックで、迷惑な見当違いのお節介であるやもしれない結び)